私の「面白い」

私の「面白い」

読んでくれたら嬉しい。共感してくれたらもっと嬉しい。でも私のために書きます。

僕と同じだ

普段、抜けているとよく言われる僕だが、この日は馬鹿でもインフルエンザはかかるだろうと予防注射の為に病院に来ていた。待合室には何名か見知らぬおじいさんやおばさん達が座っている。僕と同じ目的で順番を待っているのだろう。静かだった。 受験生だった僕は英単語帳を開く。話をする人々は他の人に気遣い、小さな声で話す。待合室の雑誌を開く人もいる。平和だ。


しかし、そんな空間に衝撃が走った!

なんとこてこてのヤンキーが入って来たのだ!
歩けばアクセサリーがチャラチャラと音をたて、膝の破れたダメージジーンズの尻ポケットからは長財布がはみ出ていている。室内なのに金縁で真っ黒のサングラスをかけて、春なのに黒の革ジャン。背中には蜘蛛の刺繍を背負い、シャツの胸にはどくろを据えている。すべて指には複数の指輪をはめ、首からは十字架のネックレス。耳と唇には複数のピアス。頭はモヒカン、横は刈り上げている。
いつの間にか聞こえていた話し声は消え、エアコンのモーター音だけが響く。
沈黙を破るのはそのヤンキーの大きなため息。「ハァーー」と面倒臭そうに長財布に手をかけて、面倒臭そうに診察券を取り出す。そして、看護婦さんのいないカウンターにターン!と置く。ドサッと椅子に座る。右の椅子に右肘を置き、左手の椅子には左肘を置く。椅子を浅く腰掛け直し、背もたれにもたれ掛かる。左膝には右足首をのせ、貧乏ゆすり。一人で三人分の椅子を使うヤンキーとは待合室の誰もが目を合わせようとしなかった。絶っっ対場違いだと思った。

そんな中、奥の看護婦さんがカウンターに置かれた診察券に気付く。(看護婦さんはヤンキーに気付いていない。)それを手に取り待合室に目もくれず確認。

知らないというのは恐ろしい。看護婦さんが本日2度目の衝撃となる一言を放つ。


「申し訳ありません、ただいま診察券を置いてくださった患者様。これ、診察券じゃなくてドラッグストアのポイントカードです。」

そして、三度目の衝撃は直後だった。
細くかん高い裏返った声で
「ア,スイマセン」
声の主は勿論ヤンキー。雀か何かかと思った。顔は真っ赤。

笑いがばれたら殺される。僕は単語帳に目を落としつつ平常心を装った。腹筋は波うっている。おしゃべりしていたおばちゃんは笑いを堪えて鼻から息が漏れている。雑誌のおじさんは膝をつねっていた。自分の膝をつねる大人なんてあれ以来見ていない。

三人分の座席を使っていたヤンキーは0.8人分にまで縮こまり、ややうなだれていた。

話す勇気はなかったが、多分あの人僕と同じタイプだ。