私の「面白い」

私の「面白い」

読んでくれたら嬉しい。共感してくれたらもっと嬉しい。でも私のために書きます。

真夜中遠州灘のすゝめ(2)

気配の方に目をやるとただの流木。
再び海岸線に向かって歩を進める。遠くでなっていたはずの風の音がどんどん近づいてくる。途中の砂浜の丘に着く。

登る。

最も標高の高い位置に来ると急に潮風が顔にあたる。下る。ふと気づくと空には星が見えている。さっきまでは町の明かりで見えていなかった。前を向くと空の下半分には星がない。おそらくそこが水平線だろう。夜の空と海には境界線が無い。後ろを向く。砂の丘に阻まれて、さっきの信号が直接は見えなくなっている。ただ、後ろの夜空では滲んだ赤が点滅している。
目線を足下に落とし、再び海があると思われる方向の闇に向かってまた歩を進める。暫く歩くと再び何かの気配を感じる。そこに明かりを向けると柵に引っかかったビニール袋が風にたなびいている。照らされるものはそれと砂浜だけ。スマートフォンのライトが照らす範囲の形をこんなにありありと感じる事はない。ここまでくると文明の明かりは完全に手元のスマートフォンだけ。電源が切れれば信号のところまで歩いて戻ることは不可能。方向すら不確かになる。昼間多くの時間をさきがちなスマートフォンがここまで頼りなく感じられる事はない。再び歩を進める。
急に足下に波がくる。靴に塩水が染みてくる。ここで「冷たい」と思えれば、多分生きてる実感と恐怖が急に沸いてくる。そうならない場合はどうなるかまだ僕は知らない。


深夜の砂浜は陰陰滅滅から抜け出すにはかなり効果的な方法。だけど、おそらく相当の劇薬。注意書は無いけど服用の際は気をつけて。