人生の先輩(2)
僕「5年ぽっちじゃないでしょ。僕が生まれる前からじゃない?」
父「じゃぁ、20年近くにはなるな。」
一同「…」
物にだって寿命があるのは理解しているつもりだ。
でも、
生まれる前からあったものというのはどうもこの世の存在と同義であって当たり前のような気がしてしまう。無くなると悲しいし、寂しい。
たかがコーヒーメーカーであっても諸行無常。
そんなことを思った休日の朝だった。
ひと時の静寂の後、父が軽い溜息をして新聞に目を戻す。母は「今日はインスタントねぇ」と言いながらマグカップを並べ始めた。
そこに、一人寝坊して起きてきた兄が寝ぐせ頭を掻きむしりながら「おはよおぉ~~~」とあくび混じりのあいさつと共に食卓に入ってきた。
我々のノスタルジーを知る由もないにしても、見事な空気のぶち壊し方だ。
兄「あれ?コーヒー淹れるの?」
母「ちょっと待ってね」
兄「じゃ、手伝うよ」
兄はおもむろにコーヒーメーカに近づき、コーヒーメーカーのコンセントをプラグに挿した。
嫌な予感がする。
スイッチを入れるとコーヒーメーカーが待ってましたと言わんばかりにせっせと働き始める。兄は食卓に置かれた自分の分のトーストをもしゃもしゃと食べ始める。
その日もおいしいコーヒーを頂きましたとさ。
(まさかコーヒーメーカーが兄側の存在だったとは…)